橋爪大三郎『政治の教室』(PHP新書)

政治の教室 (PHP新書)

政治の教室 (PHP新書)

 
 そういえば民主主義って正確にはどういう制度なんだろうな、と思って読んでみました。『冒険としての社会科学』、『橋爪大三郎社会学講義Ⅰ・Ⅱ』も同時購入。
 歴史的な民主主義の形成過程、その原理、中国の儒教など民主主義から外れたところの影響、日本の民主主義の歴史と現実、改革案、それらがわかりやすく整理されていてとても勉強になった。
 ただし、他の人より意識はかなり高いとはいえ、戦後憲法の欠陥をあげつらったり現在の憲法改正の空気に好意的なことを言っているのは許せない。端的に状況が見えていない。「有事のことを考えるから、有事が起こる」という主張を左翼がしていてバカだ、有事法制は必要だ、みたいなことも言っているが、なるだけ戦争をしないような外交努力をしようという気があるならともかく、とにかくアメリカに従って、チャンスがあれば戦争だってしちゃうぜ、というのが現在の実情だろう。有事のことを考えるから、というより、今のこの国の人々は「有事のことしか考えていない」とさえいえるのではないか。北朝鮮に怯え、青少年に怯え、不審者に怯え、性犯罪者に怯える。他者に対する根拠なき不安は増大する一方だ。その割りに現実に対する当事者意識が乏しく、「戦争はモニターの向こうで起こっている」的な感性が強固になっている。自分が現実を造ることにコミットし、現実を否応なく造り出している、ということに驚くほど無頓着で、それどころか匿名のメタな立場を望み、第三者を気取ろうとさえする。だから炎上などというものが平気で起こったりする。
 そういうことを考慮に入れさえすれば、政治の入門テキストとしてはほんとに有用ではないかと思った。
 それにしても、こういう制度でこの国は運営されているはずなのに、それをほとんどの人が学校教育を終えた段階で理解していないというのは非常に問題だと思う。広田照幸の提唱どおり、政治教育をもっとしっかりやったほうがいいな、と、この本の内容と現実を見比べて思った。