ゲーム影響論の複雑な話

 草莽崛起ーPRIDE OF JAPAN 凶悪な少年犯罪-「脳内汚染」ゲームが脳を汚染する
 草莽崛起ーPRIDE OF JAPAN 2006年06月28日
 成城トランスカレッジで知った「日本会議系のブログで岡田尊司という精神科医のゲーム悪影響論のインタビューが掲載されていていろいろ物議をかもしている」話について。
「良識」ある人々は岡田氏の論説を「トンデモ」として一刀両断にするのがよいという「空気」があるっぽいんだけど、これはそう簡単な話ではないような気がする。
 結局岡田氏の失敗はネット上ではすこぶる評判の悪い「ゲーム脳」的な議論をし、さらに統計的にすでに否定されている「凶悪」な少年犯罪の増加を引き合いに出してしまったからではないだろうか。ためしに「ゲーム脳」っぽい疑似科学と思われる部分や統計的な間違いの部分を取り除いてみてみると、岡田氏の主張は意外と説得力があるように思う。
 岡田氏の主張でゲームが悪いとされる三つの指摘のうち、明らかにおかしいのは、二つ目の「麻薬と同じ」という点だろう。一つ目の「ゲームは子供の時間を奪っている」ということと、「禁止プログラムの書き換え」いわゆる「オペラント条件付け」に関する議論はもう少し慎重な吟味が必要だと僕は思う。
 一つ目の点について否定的なことをまず言うと、子供の時間を奪っているのはゲームだけではないということがいえる。これについてはすでに指摘されているので詳しくはインタビューの掲載記事コメント欄を参照されたい。しかし昔に比べて子供が何らかの形で時間を奪われているというのは事実らしい。岡田氏の主張を注意深く見てみると、ゲームが直接的に凶悪犯罪を引き起こすというようなことは言っていない。むしろ、ゲームによって必要なコミュニケーションや休息の時間がなくなる、ということのほうを問題にしているのである。であるからして、岡田氏はゲームを悪者扱いする文脈でではなく、本当にコミュニケーションや退屈が必要なのか、そういう時間が奪われているというデータがあるのか、もしそうならばなぜそのような状況になったのか、社会にどんな変化があったのか、ということに議論を絞るべきだったといえるだろう。
 三つ目の点。アメリカがベトナム戦争時に備えて行なったオペラント条件付けの訓練の話は本当であると思われる。この話は最近富野由悠季大塚英志があちこちで言っていることだが、ゲームの中で人型のオブジェクトを撃ったり刺したりすることがオペラント条件付けと同様の効果を与える可能性を考えることはかなり蓋然性の高い議論として考えられると思う。大塚によればゲーム業界の倫理規定なんて「人間じゃなくてゾンビだから」などという詭弁で実質的に人殺しのゲームを通過させた程度の「規制」である。これもゲームが直接的に影響するわけではないが、少なくとも「人を殺しやすくさせることの片棒を担いでいる」可能性はある。
 大塚は、文学を含めたあらゆる表現には人を損なうリスクがあり、そのリスクを割り切ったり隠蔽したりせずにきちんと抱え込んでいくべきだという立場なのであるが、どうも最近の表現規制に反対する人々にはそういう覚悟が足りないような気がする。こういう「トンデモを叩いてことたれり」、みたいなのもネット右翼化の一つの現れなのだなと個人的には思う。

追記:オペラント条件付けの話もきちんと実証研究しないことには判断はできない。その点でもやっぱり岡田氏の断定的な話は早計だったとは思う。